所属カウンセラーの水野です。
12月になりました。 空気がすっかり冷たくなり、吐く息が白くひろがる季節になりました。 皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
気温がぐっと下がるこの時期、そして次の年を迎えるにあたって慌ただしくなるこの時期は、大人も子どもも、いつもより少し心が敏感になります。
「なんとなく落ち込みやすい」「疲れが抜けにくい」
そんな感覚を覚えている方もいらっしゃるかもしれません。
寒さには、心と身体がついていくのに時間がかかるものです。どうか、あたたかい飲み物を片手に、こちらのコラムをゆっくり読んでいただければ幸いです
前回のコラムでは、番外編として「秋バテ」について取り上げました。
【折れない心を育む|番外編】「秋バテ対策」で寒い冬に“心を備えよう”!-喪失と再生の狭間で-<親子でできるセルフケア付>
本来なら、秋という季節は「冬への準備期間」として、心にもゆとりをもたらす大切なワンクッションの役割を果たします。しかし、近年は気候の移り変わりが急で、秋を感じる前に冬が来てしまったような感覚を抱きます。その影響が喪失感として、心にもあらわれやすい
−というお話をさせていただきました。
そして、「心が揺れることは自然なこと」であり、そこに自分なりのケアや回復の感覚を持つこと、親子でできるワークをご紹介しました。
今回はシリーズの本流に戻って、「折れない心」、折れそうになった時に「しなる柔軟な心」を育むために、お子さまにどのような体験を積み重ねてほしいのかという話を深めていきます。
本日は、「子どもにどんな体験をさせるのがよいのか?」
というご質問にお答えしていきたいと思います。

子どもに体験してほしい3つのこと
保護者の方からよく、
「子どもにどんな体験をさせるとよいのでしょうか?」
というご質問をいただきます。
私はいつも次の3つをお伝えしています。
1.心穏やかに過ごせること
2.人といて楽しいと感じられること
3.求めた援助が受けとめられること
ひとつずつ、簡潔にご説明していきます。
1.心穏やかに過ごせること
これは、「自分の心が落ち着いている状態って、こういうことなんだ」と、子ども自身が体感で覚える(掴む)体験です。
心はいつも一定・安定しているとは限りません。 学校で嫌なことがあったり、友だちとの関係で揺れたり、思い通りにいかず悲しくなる日もあります。子どももまた、日々心揺れながら生きています。
だからこそ、
「揺れた時に戻ってこられる、自分の感情の軸となる感覚」
が必要なのです。
たとえば、感情が揺れているときには気がつけなくても、ふーっと息を吐いて、少し冷静になってから考えてみると、
・本当は自分はどうしたかったのか
・何が悲しかったのか
・本当は仲直りしたいのではないか
・でも、今は素直になれずに言えなかったのではないか
といった、自分の本当の気持ちが少しずつ見えてくることがあります。
感情的になっているときには、こうした気持ちを見過ごしてしまうことが多いのです。
感情的になることも決して悪いことではありません。また、我慢して、いつでもクールでいなければならないということでもありません。なぜなら、感情が溢れた瞬間に、自分の正直な気持ちに気づけることもあるからです。
一方で、感情的になりすぎたことで、本当の自分の気持ちや、相手の気持ちを見落としてしまうこともあります。そのような時に生じたすれ違いは、悲しい結果を生んでしまうこともあります。
だからこそ、ほっと一息、「穏やかな時の自分はどう考えるだろう?」と思う一呼吸、ー空間はとても大切なのです。
穏やかに過ごせる時間や空間を繰り返し経験すること
心が揺れた時に落ちつけられる時間や空間を繰り返し体験すること
で、−自分が穏やかに、冷静に考えられる「心のポジション」はここなんだ
という安心の基盤が育っていきます。
この「冷静に考えられる心のポジション」(自分の感情の軸)を育むためには、安心して安全に過ごせる空間、いわばホームの感覚が大切です。
・お家の中の、ほっとできる時間
・一緒に過ごしていて安心できる人との関わり
・自分のペースで過ごせる瞬間
こうした積み重ねが、「感情的になったり、揺れたりしても、ここに戻ってくる」という感覚を育てていきます。 この感覚は、感情コントロールにも役立つ感覚であり、大人になってからもずっと心を支えてくれる“軸”になります。
また、この感覚を育むことで、
① 意識せずとも穏やかな感覚に戻って来れる
② あるいは、今は感情的であるが、いずれは穏やかな感覚に戻って来られるという自分への安心感
に繋げることができます。
2.人といて楽しいと感じられること
子どもが上述したような心穏やかに過ごせる感覚の中で、「安心」を超えて楽しさを感じられる体験を重ねることもとても大切です。
その楽しさは、「人と関わることって、心がポカポカするな」「あたたかいんだな」と感じられる体験でもあります。
他者といて楽しいと感じることは、
相手に対してポジティブな感情を抱くということに加えて、
「自分と一緒にいて楽しいと思ってくれる人がいる」
という実感にもつながります。
この実感は、自己肯定感を育てるうえで欠かせない土台になります。
人と関わる中では、時にうまくいかなかったり、相手に迷惑をかけてしまうこともあるかと思います。それでもなお、相手と笑い合えたり、「楽しかったね」と言ってもらえる体験を通して、人間関係には“揺れ”があっても繋がり続けられるという感覚が育っていきます。
その積み重ねが、
「迷惑をかける時もあるし、かけられる時もある。それでも大丈夫」
という 「お互いさま」の感覚 につながります。
この「お互いさま」という感覚は、将来の対人関係を円滑にする大切な感覚です。
近年は、
「人に迷惑ばかりかけている気がする」
「自分だけ周りの負担になっているのでは」
と悩みを深めている方が少なくありません。
だからこそ、子どもの頃から 迷惑をかけ合うのも人間関係の一部である という 「お互いさま」 という感覚を育むことは、とても重要なテーマだと感じています。
人といることそのものに、あたたかさや楽しさを感じられること
それが、子どもにとって大きな栄養になるのです。
3.求めた援助が受けとめられること
これは、子どもだけでなく大人にとっても、とても難しい課題です。従って、子どもの間から練習しておけると良いでしょう。
援助を求めるという行為を細く分けると、
・自分の状態に気づく力
・相手を選ぶ判断力
・言葉で伝える力
・「断られるかもしれない不安」に耐える力
・援助に対して感謝を伝える力
などの様々な能力が必要です。このプロセスは、大人にとっても複雑で、簡単なことではありません。
援助を求めるためには、こうした知的・感情的なプロセスを踏まえる必要があるうえに、そこに「勇気」が求められます。
なぜなら、援助を求める際に、人は「不安」「心ぼそさ」「緊張」
などの、ある種<危機的な感情>の中にいるからです。その感情を抱きながら、「援助を求める」というタスクまで抱えなければならないのです。
従って、相談した先に受けとめられる体験(成功体験)があると、
「相談してよかった」
「人ってあたたかいんだ」
という感覚が、子どもの心の中にじわっと広がります。
このことは、生きていくうえで大切な感覚が育まれることにもつながります。
それは、人生のどこかでまた誰かの助けが必要になった時、
「あの時うまくいったから、今回も頼ってみよう」
と思える力になります。
これら3つの体験は、どれも一度で身につくものではありません。 ゆっくり、何度も、温かく積み重ねていくことで、子どもの人格の核になっていきます。
そして、これら3つを尊重されて育った子どもは、
自分を大切にしつつ、
他者との関わりを楽しみ、
他者と助け合い、支え合う人
になります。
つまり、
“自分を大切にしながら、他者も大切にできる心”
が育つのです。

親子でできるワーク
それでは、ご家庭でも取り入れやすい、小さな3つのワークをご紹介します。
1.「今日のほっと時間」を見つける
寝る前、1分だけで構いません。
たとえば、こんなふうに聞いてみてください。
「今日いちばんうれしかったこと、なにかあった?」
「今日、『あ〜なんかいいな〜』って思ったときあった?」
「今日、ほっとしたり、ニコッてなれた瞬間あった?」
内容はなんでもいいのです。
好きなアニメを見ていた
おやつを食べていた
ママがぎゅっとしてくれた
お風呂が気持ちよかった
そんな小さな「ほっと」が、穏やかな心の“種”になります。
<ポイント>
「ほっと」は抽象的な概念ですので、子どもにとっては少し掴みにくいかもしれません。一緒に言葉を紡ぎ、共感を伝えながら、「子ども自身にとっての安心感」を、少しずつ体感とつなげていけると良いでしょう。
2.「いっしょに楽しい時間」を作る
特別なイベントでなくて構いません。
・一緒に折り紙をする
・お子さまの好きなゲームの話を聞いてみる
・スーパーで好きなお菓子を一緒に選ぶ
・共通の趣味を持つ
“短くても良いので(負担のない範囲で時間を決めて)共有する楽しい時間” を積み重ねるほど、「人といるって心地いい」という感覚が育ちます。
そして実は──会話をしていなくても、「同じ空間に一緒にいる」だけでも十分です。
会話なく隣で絵本をめくる、別々のことをしながら同じ部屋で過ごす、そんな静かでゆるやかな時間も、子どもにとっては大切な「人といて安心できる」「あたたかい気持ちになれる」経験になります。
<ポイント>
年齢にもよりますが、まずは「勝負のあるゲームでないこと」でワークしてみると良いかもしれません。
「勝負のあるゲーム」は、楽しい・落ち着けるといった感情よりも、「勝ち負け」へのこだわりが喚起されやすく、「いっしょに楽しい時間を作ること」「寝る前に実施してみること」を目的とした時には不向きな場合もあります。
ただし、「勝負に耐える力」も大切な能力ですので、それについてはまた別の機会にお伝えしていきたいと思います。
3.困った気持ちを言葉にする練習
お子さんが困っていそうなタイミングで、
「困っていそうに見えるけど、どうした?」
と、まずはそっと声をかけてみてください。
「困っていそうに見える」と言葉にして伝えることで、 子どもは「この今の感情は、困っている状態なのかもしれない」と、自分の状態を少し客観的に捉えられるようになります。
そのうえで、「どうした?」と問いかけ、何に困っているのか言語化できるようサポートします。子ども自身が言葉にすることが難しそうであれば、大人が一緒にことばを探してみてください。
次に、
「どうしてほしい?」
と、ニーズを尋ねてみてください。
ニーズが明確に伝えられた場合は、そのニーズに添った対応を行いましょう。
もし、子どもが望むことが難しい場合は、代替案を1〜2つ提示し、
「これだったらできるけど、どうする?」
と、選べる形にしてあげると安心につながります。
すぐに援助を求められない様子のときには、
「いつでも声かけてね。待ってるよ。」
と、頼りやすい扉を開けておくような声かけが大切です。
そして、「困っている」「助けてほしい」などと言えたら、
「言えてよかったね」
「頼ってくれてうれしいよ」
と、その一歩をしっかり受け止めてあげてください。
助けを求めたあとに受け止められた経験は、子どもの心をしっかりと支える大切な成功体験になります。
<ポイント>
ここで大切なのは、先回りをしすぎないことです。
保護者の方の汲み取る能力は、子育てにおいて貴重な才能ですが、大人がすぐに察して先回りしすぎてしまうと、
・「自分は今、困っているんだ」と気づく力
・「どんな時に助けを求めるべきか」を判断する力
・「自分は何をしてほしいのか」というニーズを理解する力
が育ちにくくなってしまう側面もあります。
子どもの精神的な成長には、何よりも自己理解が欠かせません。その力を育てるためにも、「気持ちと言葉をつなげる声かけ」自己理解を促す声がけを意識してみましょう。

まとめ
本日は、「子どもにはどんな体験をさせるとよいのでしょう?」という多くの保護者の方からのご質問にお答えすべく、
1.心穏やかに過ごせること
2.人といて楽しいと感じられること
3.求めた援助が受け止められること
という3つの体験についてお伝えしました。
1.「心穏やかに過ごせること」は、感情が揺れたときに戻ってこられる“感情の軸”を育てる体験です。 ご家庭でほっとできる時間や安心できる関わりが、その土台をつくっていきます。
2.「人といて楽しいと感じること」は、人との関わりにあたたかさや心地よさを感じられる体験です。 「自分と一緒にいて楽しいと思ってくれる人がいる」という実感は、自己肯定感を育て、人との距離感をやわらかくしてくれます。
3.「求めた援助が受けとめられること」は、勇気が必要な体験ですが、とても大切です。援助が受けとめられる体験は、抱え込みすぎずに自分や相手を守る力へとつながっていきます。
そして、ご紹介した3つのワークは、どれも特別な準備が必要なものではなく、
・1日の終わりに少しだけ言葉を交わしてみる
・短いけれど一緒に楽しい時間を作ってみる
・困っていそうなときに、少しだけ声をかけてみる
といった、“日常の中で取り組める関わり” です。
こうした特別ではないけれど、大切な日々のやり取りを、あせらず、できる範囲でゆったりと続けていくことが、結果的にお子さんの「折れない心」「柔軟な心」の土台になっていきます。
そして同時に、これらの取り組みは、
お子さんだけでなく、保護者の方ご自身の「心のキャパシティ」を整えることにもつながります。
【折れない心を育む】心理士(師)が伝える:「自分の心のキャパシティを守る大切さ」〜 子育て相談をお受けする時の視点-part2 –
お子さんと一緒に「ほっと時間」を思い返してみたり、 「今日は自分も、人に頼ることができたかな?」とふり返ってみることも、 ご自身のケアとして、大切にしていただけたらと思います。
次回は、本日の続きとして、 「子どもにとってもご家庭・家族の役割について」 お伝えしたいと思います。
ひとりでも多くの方が、ひとりで抱え込まずにすみ、
自分自身や身近な人を大切にしながら過ごせる日々につながるよう、
これからもお役に立てるコラムをお届けしていきたいと思っています!
▶︎大切な人との関係性構築についてはこちらのコラムをご覧ください。
【関係性の相互性からみる心の発達】水野コラム
こちらのコラムでは、「大切な人との関係性をどのように築いていくか」について、日々の中で使えている考え方やスキルをご紹介しています。大切な人を大切にすること、大切にできることは、「自分自身を大切にすること」にも繋がる大事な作業です。
「自分はここにいて良いのだ」「もっと頑張ろう!」など、安心感や、モチベーションにもつながる大事なことです。
大切な人との関係性構築にぜひお役立てください。
本年、最後のコラムになります。
今年も大変お世話になりました。
また来年、皆さまにお会いできるのを楽しみにしております。
どうか、皆さまの毎日が少しでも心あたたかく、穏やかなものになりますように。
どうぞ、良いお年をお迎えください。

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